2009年の言いたい放題

京都在住のrazzorrat2009が政治・経済から日常生活、趣味に思うことを無責任に言い放ちます。

モンスターと消費者マインド 

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モンスターペアレンツ(怪物保護者)、とかいうテレビドラマがあるけど、医療現場の第一線で働く知人に聞くところによると、モンスターペイシャント(怪物患者)の害悪も相当なものだとか。

いずれも、端的に言えば「クレーマー」(モンスタークレーマーというべきか)というカテゴリーで整理・理解できるものなんだけど、この二者が一般的なクレーマーとは異なる大きな点がある。

一般的に言って、デパートや商店などの物品売買ベースの分野では、責任の範囲は有限。「おたくで買った商品が不良品ではないか」とクレームを出されても、「じゃあ交換に応じます」「じゃあ代金をお返しします」で大抵は済んでしまう。勿論、その有限責任の範囲を超えて賠償を求めるモンスターのようなクレーマーもいるわけだけど、物品売買という特性上、商品の代金という有限の枠を超えた責任追求をするのはなかなか難しい。

ところが、教育分野や医療分野においては、このサービスについてはこの料金、という明確な一物一価の法則が成り立っていない。そのため、責任の有限性が非常に曖昧で、その範囲は容易に引き伸ばされてしまう。

この分野では、一物一価の法則が成り立たない。加えて、何らかの損害・不利益が発生した場合、損害は修復もできず、金銭で代替もできない場合が多い。1億積んでも死んだ人は生き返らないし、100億積んでも子供の心の傷は癒えない。

この点が、教育・医療分野の特殊性である。この2つの特性のため、この分野では容易にクレーマーがモンスター化する。だからこそ、この2分野についてだけ、特別にクレーマーの呼び方が異なっている。

モンスタークレーマーは、相手の故意・過失の有無に関わらず、自分が賠償を必要とするほどの被害をすでに受けてしまった被害者であることを前提に、その前提を相手に認めさせるところから議論を始める。特にクレーマーとしての振る舞い・主張の仕方を心得ているような人々の手にかかれば、教育・医療分野では、責任はごくごく容易に無限伸張されてしまう。

諸悪の根源は思うに、社会の市場経済化がもたらした、無色透明の主体がお金を払って、無色透明の客体からサービスを受けると言う関係を当然視する、いわゆる消費者マインド。商品やサービスを介した無時間的な関係を前提とし、買い手が誰なのか、売り手が誰なのかを全く気にしない市場経済が醸成する、特殊な人間関係(無人間関係という関係)。

財貨やサービスの交換は本来、人間関係を前提とするものであった(または、結果としてでも人間関係を形成する)。交換と人間関係は本来不可分一体のものであったことについては、人類学者が嬉々として解説してくれるだろう。

ところが経済学がモデルとするような市場経済は、効用の最大化を行動指針とした財貨の交換行為だけを社会全体から抽出して物事を考える。その交換行為が埋め込まれている社会や人間関係や意味はすべて切り捨てて、効用の最大化だけを目指す人間の集合として社会を描くのが経済学である。無色透明の交換行為だけを抽出したならばという仮定の上に成り立っている理論的モデル、形而上学的概念、これが市場経済だ。

市場経済という概念は、他にも、情報の公平性だとか、売り手も買い手も無数にいることとか、需給バランスの無時間的な調整だとか、政府の不介入だとか、多くのフィクショナルな仮定に支えられているものであるが、そのいずれもが医療や教育の分野にはあてはめるには無理がある。つまり、医療や教育という分野は、現状、市場経済的なものの考え方には馴染まないようにできている。

我々日本人は(あるいは現代人すべては)、本来的には形而上学的概念でしかなかったこの無色透明の交換行為、という考え方に慣れすぎてしまっている。何らの人間関係も伴わず、効用の最大化だけを目指した財貨の交換、という理論的モデルがデフォルトの商行為だと思い込んでいる。

本来、医療や教育は、売り手も買い手も無数にいて消費者は自由に商品を選べるというような、市場経済を前提としたサービス業ではなかった。それが、社会の市場経済化とそれが醸成する消費者マインドの浸透に伴って、あたかも市場経済という舞台で提供されるサービス業であるかのように認識され、扱われるようになっていった。そこにこそ、モンスターペアレンツ、モンスターペイシャント誕生の理由がある。

医療や教育を市場経済のルールに従うサービス業と考えるのかどうか。もしサービス業ではない、というのならばそれはどのように定義されるべきなのか、を考える必要がある。


参考文献:
「下流志向」内田樹
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[ 2008/07/14 ] 経済 | TB(0) | CM(0)
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プロフィール

razzorrat2009
30台男性、既婚、団体職員。
修士号(人類学)取得後、卓球に打ち込んでみたり、京都に引っ越したり、結婚してみたりしつつ、渡米。英語がペラペラになりそうなタイミングで帰国し、象牙の塔に宮仕えしたりしながら糊口をしのいでます。

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